歯科の2大疾患とされる歯周病およびう蝕は、その発症、進行によって歯の喪失が生じると、口腔機能障害を引き起こし、歯や口腔の健康にのみならず、全身健康にも悪影響を及ぼす。また、歯や口腔の健康を保つことは、単に食物・咀嚼するだけでなく、食事や会話を楽しむなど生涯豊かな生活を送るための基礎となる。高齢者においても歯の喪失が10歯以下であれば食生活に大きな支障が生じないことから、生涯を通じて自分の歯で好きなものをおいしく食べ、生き生きとした会話や笑顔を持ち続けるために、80歳になっても20歯以上の自分の歯を保とうとする「8020運動」が提唱・推進されている。
平成17年度:80歳で20歯以上の歯を有する者の割合は初めて20%を超え、平成23年度では38.3%となり平均歯数は約13.9歯となった。「健康日本21」における2010年までの歯の喪失防止の目標は、「8020達成者を20%以上に、6024達成者を50%以上にする」であることから、その一端は達成できたことになる。しかし、一方で4mm以上の歯周ポケットを有する者高齢者の割合は増加している。
わが国の歯周病の有病率は他の疾患に類を見ないほど高く、社会および国民に与える影響はきわめて大であり、歯周病の治療および予防への取り組みは今後の重要な課題となっている。
歯周病は歯周疾患ともよばれ、歯肉病変と歯周炎とに大別される。歯周病は非プラーク性歯肉疾患を除き、歯周病原性菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患であり、歯肉、セメント質、歯根膜および歯槽骨よりなる歯周組織に起こる疾患を言う。
また最近、歯周病は生活習慣病として位置付づけられ、食習慣、歯磨き習慣、喫煙、さらに糖尿病などの全身性疾患との関連性(歯周病が全身の健康にも影響を与える:ペリオドンタルメディシン)が示唆されており、歯科医療従事者による保健指導の重要性が示されるようになっている。患者個人の生活習慣の改善、自助努力、さらには医療連携(全身疾患など)などが必要である。
「平成23年歯科疾患実態調査」によると、若年性においては歯肉に所見のある者は少ないが、高齢になるにつれ歯肉に所見のある者が増え、45〜49歳の年齢階級層で約87%を示し、最も高い率となっている。働き盛りの年齢層(35~69歳)ではほぼ80%以上を示す。
歯周病の罹患状況は、64歳以下における4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は減少傾向にあるものの、65歳以上では増加する傾向がある。このことは、各年齢階級層における現在歯数が増加し、調査対象歯がより多く存在したためと推測される。
「平成23年歯科疾患実態調査」をもとに、歯肉に何らかの症状が見られる患者数を推定すると約9,400万人となる。しかし、実際に歯科診療所で治療を受けている患者は、約260万人である。平成11年での受診者が約120万人であったことを考えれば倍増しているものの、総患者数からするとまだまだ少ない。この数字の差から、「歯周病であることに気づかないでいる人」や「気づいていても治療しないでいる人」がいかに多いかがわかる。今後さらなる受診率の改善が望まれる。